奥山 忠政(おくやま・ただまさ)
【略歴】
昭和35 年(1960)神戸大学法学部卒業。総合商社員~ホテル総支配人~大学講師を経て久留米大学大学院・前期博士課程に社会人入学(経
済学修士)
東アジア学会・企画委員
アジア麺文化研究会・事務局長
【主な著書・論文】
文化と文明の視角<共著>(1999 東海大学出版会)、ラーメンの文化経済学(2000 芙蓉書房
出版)、都市と農山漁村の新交流<共著>(2002中国経済出版社)、グリーンツーリズムが拓くアジアの未来(2005 JICA・久留米大学)
Email/ okuyama@sunglow.info

四国B級ご当地グルメ論  

四国B級ご当地グルメ連携協議会 常任顧問 奥山 忠政

はじめに

 古来、故郷は「クニ」と呼ばれていた。近代になって「国」の訓みに「クニ」が転用されるようになり混同が生じた。おそらく為政者たちは「故郷を愛するように国家を愛せよ」と言いたかったのであろう。
 「故郷」と「国家」は対極的な概念である。「国家」が政治目的のためにつくられた人工装置であるのに対し、「故郷」は人類の誕生とともにあって身体と感性を生み育んできた実在といえる。それゆえ、たとえ他所に住もうとも、「こころのふるさと」は健在でありつづけているのである。
 いっぽう、郷愁の対象である「故郷」のありさまはどうかというと、グローバル経済の波にのまれて疲弊の淵に立たされているのが現実の姿である。この悲劇的ミスマッチをどう解決すればよいのだろうか。
 一つの解は、米麦や蔬菜のような「モノ」の生産だけに価値を求めるのではなく、生活文化のような「コト」の価値を認識し、活かす工夫や努力を自ら推し進めるところにあると考える。このことを四国を舞台として論じたい。すなわち「食文化による地域おこし」である。特色ある郷土料理(ご当地グルメ)を介して都市住民の潜在的な願望を満たし、交流を生み、地域に元気を取り戻そうというのである。
 「食文化」を考えるうえで和辻哲郎の風土論が示唆に富む。和辻は、地域の人たちが固有のものと自覚する(アイデンティティーを見出す)生活様式をもたらすような自然を「風土」と規定、このことは食物においていっそう顕著であるとした。「我々の食欲は、食物一般というごときものを目ざしているのではなく、すでに永い間にできあがっている一定の料理の仕方において作られた食物に向かう」「この料理の様式が一つの民族の永い間の風土的自己了解を表現する」と述べている。(『風土―人間学的考察』岩波文庫版)
 ついで、「観光」にふれる。
 固有の生活様式=文化は内在的欲求として他者に誇示することを願う。これに対応して、異文化を覗き見たいという好奇心がつねに存在する。「観光」が成立する根拠はここにある。「観」に「見せる(show)」と「見る(observe)」の両義のあることを指摘しておきたい。
 以上を予備知識として、「四国B級ご当地グルメ論」を進める。

いま、日本は

 人口減と高齢化・デフレスパイラル・財政危機―。日本はいま、かつて経験したことのない局面に際会している。多くの人が「そのうち何とかなるだろう」と目をそむけているが、おそらくどうにもならないであろう。このままでは過疎化がさらに進み、コミュニティ―(地域共同体)の崩壊は阻止できず、財政破綻は避けられない。
 ではどうすればよいであろうか。ひと言でいえば、国家もわれわれも「身の丈に合った生き方」をするしかないということである。経済学的には、「成長に依存しない社会をつくろう」「文化価値を大切にしよう」ということになる。
 われわれは「地道な貢献」と「応分の楽しみ」に生きがいを見出すしかない。身近かなところに喜びや楽しみを見出し、仲間と育てていこうということである。キーワードは「文化」と「きずな(絆)」であり、経済学の重視する「投資・利益・効率」とは縁の遠い世界である。

「地域おこし」と「観光」

 「地域おこし」とは、「地域の価値ある素材を活かしてその地域に人と金を呼び込み、その効果を一過性に終らせることなく、還元・循環させること」をいう。
 念のため申し添えると、「地域おこし第一の目的」は、そこに住んでいる人たちが「この地に住んでいてよかった」と思うようにすることである。それは他郷、とくに大都市との対比において気づかされることが多い。コミュニティ―のきずなから得られる「安心」や「楽しさ」も大きな要素となるだろう。結果として、そのような「地域文化」が観光客を呼び込み経済活性化をもたらすのであって、「観光」のために「地域おこし」をするのではない。
 地域経済において「観光」は主要産業となる。観光欲求は人間の本性にかかわるものであるということと、観光資源の開拓にさしたる資金を要しないことが出発点となる。日本人のばあい、三大観光動機は「温泉・自然景観・食」である。
 総人口一億二千万人の約五〇%が三大都市圏に居住しているというイビツさは異常だが、見方を変えれば、それぞれの人口塊を市場と見なすこともできる。四国に関していえば、阪神都市圏がそれに当たる。
 観光による交流人口増は、定住人口減をかなりの程度においてカバーすることができる。重要なのは行政や業界に任せるのではなく、地域住民が消費者の視点に立って積極的に地域を売り込み、自立した継続事業に結びつけることである。

B級ご当地グルメ

 観光動機の「食」にかかわるのが「B級ご当地グルメ」である。ただし両者はストレートに結び付くわけではない。「地域おこし」あっての「B級ご当地グルメ」であることをまず銘記したい。
 「B級ご当地グルメ」とは、「地域に根づいた安くて美味しい食べ物」で「地域に根づいた」ということが重要である。「にわか仕込み」や「駆け込み料理」ではないという意味であって、「地域固有の食材や料理法」「地域の人たちに支持・共感があること」が最低限の要件となる。
 「安い」ということは「地域おこし」の本質とかかわる。地域に根づいている日常食は本来安価なもので、安ければこそ多くの人が気軽に食べてくれる。
 「美味しい」とは、このばあい相対味覚である。なつかしさ・珍しさ・物語性に呼び起こされる味覚のことである。これに対する絶対美味は、『吉兆』『星岡茶寮』『トゥールダルジャン』などで提供される料理の味覚である。新居浜市出身の作家・鴻上尚史氏が「宇高連絡船の讃岐うどんが晩年だんだん美味しくなっていったのが残念だった」と述懐していた。
 ついで「B級」の意義である。「B級ご当地グルメ」は、「安さ」と「相対的美味しさ」に着目した、「地域おこし」のためのカテゴリーである。ビタミンにおいて「A」「B」に優劣のないのと同様、「ご当地グルメ」においても「A」「B」に優劣はない。「ウチのはA級ご当地グルメです」と自慢気に話す者がいるが、「地域おこし」に関するかぎり矛盾に満ちた無意味な発言でしかない。「美味しいけれど値段が高くて来客が少なく、地域おこしに役に立ちそうにありません」と言っているに等しいからである。
 「昔からあるものを発掘する」(伝承型)のが本来的だが、「新しく創作すること」(創作型)も軽視できない。両者の中間に「かつてあったものを復活する」(復活型)という類型がある。
 「創作型」「復活型」の料理は、まず地域内での支持・定着を図るのが筋である。
 良質の生産物は都市に出したほうが高く売れるというのは誤解である。付加価値をつけて(料理したり宿泊とセットにしたりして)売ればむしろ高く売れるいっぽう、消費者にとっては相対的に安くなるため、量的に捌ける(来訪者が増える)メリットが生まれる。このことはとりもなおさずグリーンツーリズムそのものといえる。
 「観光」と「B級ご当地グルメ」について倒錯した考えをもってはならない。「B級ご当地グルメ」がまずあって「観光」と結びつくのが順序である。結果として観光客が増えて経済が活性化するするということを期待するにしても、初めから目的とすべきではない。
 第一に、観光客は「ありのままの生活文化」に触れたいのであって、見え透いた営利はむしろ反感をかうだけである。
 第二に、週末か連休にしか来ない観光客を対象に特別メニューを用意するのでは、営業的に成り立たない。
 第三に、観光事業者主体の「業者おこし」になってしまうと、協調が乱れたあげく、観光客から見放されてしまうことになる。

「地域おこし」の主体

 「地域おこし」を動かすモメントは、①気づき、②奉仕の精神、③行動力、である。
 「気づき」は、地域の特性や文化を住民に自覚させることで、通常地域外の者から指摘される場合が多い。
 「奉仕の精神」はいわゆる「ボランテイア」のことである。「地域おこし」は基本的にボランティア活動でなければならない。公平性を保ち、共感を得るためである。
 「行動力」は「仲間と楽しく活動する」ことから生まれる。その際大切なのは「遊び心」である。「遊び」とは、おもしろさ・たのしさ・うれしさを大事にする「ゆとり」のことである。正義感・使命感・義務感では長続きしない。また、「遊び心」にはアイディアを生み、チームワークを保つ働きがある。ここでは、共通の利益と自己実現を調和させようというベクトルが働く。これらは主として若者たちの世界である。
 以上の三者は分担されることが多く、「よそ者・バカ者・若者」と、くだけた表現で示されたりする。

 

四国B級ご当地グルメ連携協議会(四B連)

  「B級ご当地グルメによる地域おこし」が静岡県富士宮市で始まって、今年で10年になる。2006年には「B級ご当地グルメで町おこしをする団体連絡協議会(愛Bリーグ)」に発展し、各地に支部が誕生した。しかしながら四国には支部組織がない。2010年4月に加入した「須崎鍋焼きラーメン」の所属は近畿中国支部である。これでは後に続く有力グルメの士気にもかかわると、2010年8月29日、渡邉英彦・愛Bリーグ会長を迎えて松山市で「四国B級ご当地グルメ連携協議会(四B連)」が結成された。B級ご当地グルメの普及を目指すボランテイア団体や地域おこしに関心をもつ個人と行政などがメンバーである。
 契機はともかくとして、四B連は愛Bリーグの支部組織ではない。愛Bリーグで活躍する四国代表の応援団であるほか、「ご当地グルメで四国を元気に」を合言葉に、埋もれたB級グルメの「発掘」・メンバー間の「連携」・情報の「発信」を行うことを目的としている。
 愛Bリーグとのもっとも大きな違いは、メンバー資格を拡張して、メジャーとマイナーを問わず、伝承型と創作型を問わず、時として営利企業をも包摂してひたすら「四国の元気」のために結集しようという点にある。異論もあるが、「由緒正しいグルメをもつ地域だけが救われるというエリート主義では四国は元気になれない」という確信のゆらぎはない。

むすび

 四国をひとつにしなければならない。まずは文化的に、次いで経済的にである。これが来るべき時代を生き抜く方途である。
 「B級ご当地グルメによる地域おこし」はその際の有力な梃子となりうる。とくに吉野川と四万十川の流域には多彩な食文化が根づいている。両河を軸に4県がネットワークを組むならば最強の観光圏が形成されるにちがいない。阪神都市圏に近い四国は本邦最後の「秘境」となるであろう。われわれの究極の夢と目標は、まさしくここにある。

【参考】
「B級ご当地グルメ」パワーと地域おこしの実例
◯富士宮やきそば学会の活動
 「地域デザイン研究所」によれば、01年から10年までの経済効果は総額約250億円と推計されている。(静岡県富士宮市 人口13万人)
◯「第4回B|1グランプリ」
 09年9月19日~20日 秋田県横手市 入場者=26万7千人(人口10万人)
 ゴールドグランプリ=横手やきそば 経済効果=開催後8ヶ月で34億円
◯「おかやまB級グルメフェスタin津山」
 10年3月20日~21日 津山市 入場者=15万人(予測10万人・人口10万人)
 (とくに順位はつけず)
◯「尾道てっぱんグランプリ2010」
 10年4月24日~25日 尾道市 入場者=3万人(人口15万人)
 優勝=今治焼豚玉子飯
◯「第5回B|1グランプリ」
 10年9月18日~19日 厚木市 入場者=43・5万人(予測30万人・人口22万人)
◯「第6回B|1グランプリ」
 11年11月12日~13日 姫路市 入場者=51・5万人(予測40万人・人口57万人)
 ゴールドグランプリ=ひるぜん焼そば
 山梨総合研究所の発表によれば、経済効果は28億円と推計されている。

四国B級ご当地グルメ連携協議会(四B連)
一般社団法人 四B連企画

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